「どうして泣いてるの?」
彼女が俺に呟いた。何も考えず、ぼう、と空を見上げていたらいつの間にかそうなっていたらしい。
「別に」
涙を拭くが、その言葉に説得力がない。
「落ちこぼれる?それとも悩んでるの?」
彼女の言葉は俺の心に突き刺さる。
『夢』を追い求めていた俺が、夢から離れた。夢のことばかり考え、理想に浸っていた俺は些細な現実でつまづいたのだ。
「………」
彼女は黙って俺の隣に腰掛けて一緒に空を見上げる。何の変化をしない、穏やかな空。何も考えず、この風の流れに身を任せる雲のようになりたいんだ。
「でもそれは自分じゃないよ」
心を見透かされたような彼女の言葉。そう。それも理解している。
もともと別の夢を抱いていた俺が、違う夢を追うことを決めたことに後悔を覚えているんだ。
「どうすればいいんだろうな」
何気なく呟く。何気なく。
「例え夢をあきらめたって、本当はあきらめてないんだよ?」
違う夢を追うことは決して自分に背を向けているんじゃない。自分の目指すものが変っただけ。背を向ける時は、ぶつかった壁を乗り越えようとしないときだ。壁の向こうには叶えたい夢がある。でも壁があるから行けない。行けないから夢から遠ざかる。『行こう』としないでどうして『行ける』のだろうか。夢を掴もうとしないで、どうして掴めるだろうか。
「俺、がんばってみようかな」
「うんっ!」
彼女が嬉しそうに微笑んだ。俺も微笑み返す。
風が、雲を優しく流していく。
◇あとがき
同じ受験で悩んでいる人へ捧ぐ。
俺は今志望校へ推薦で行きたいと思っている。だが理系・文系と分かれているなかで、二年次では小説をやりたいと思い、文系を選んだ。しかし今ではゲーム関係の仕事に就きたい。ある会社に入社したいのだ。しかしそれでは文系ではなく、理系を選ばなくてはいけなかった。まだ現時点ではわからないのだが、志望校へ推薦で行けないのかもしれない。そうなるとセンター(一般)入試になる。しかも俺は全然学んでいない教科が二教科もある。人の三倍努力しないと受からないだろうな。そこで「努力」という壁にぶち当たる。これを逃避して専門学校という手もある。しかし四年生大学に入ればその会社への就職率が高くなるのだ。なら、ここで努力して夢である「就職」できるのであれば、三倍努力するしかないだろう。
本当は努力なんて嫌いだ。しかしこれは自分のことだ。
達成できる自信は0に近い。しかし心を鬼にしたいと思う。
「夢」があるから。
2006/4/03