遠くへ逝ってしまった。
 もう、二度と見ることはない。
 あの声を。
 あの温かさを、  もう聞くことはない。
 聞けないのだ。





 願いが一つ叶うなら、もう一度君と一緒にいたいよ。
 あの日、俺の代わりに身を投げた君は死ぬはずだった俺を助けてしまった 。
 だから死なないはずの君が逝ってしまった。
 どうして、
 なんで俺の代わりなんてしたんだ?
 俺は頼んでなんかいないのに?
 なんで?





 今、俺がここにいることを、君は怒るかな?
 俺はふっ、と笑みを浮かべる。
 高層ビルの屋上。吹き付ける夜風が気持ちいい。
 このまま足を踏み出せば君の元へ逝ける。今度は俺の代わりはいないんだ 。
 前を向いて目を凝らす。星と人口の光が同調してどちらがどちらかわから ないくらいだ。
 なら、俺は地に落ちるんじゃない。空へ飛ぶんだ。
 そう思って目を閉じた。今までの人生が走馬灯のように瞼に焼きつく。
 最後に、君が悲しそうな顔で俺を見つめている。
 そんな顔するなよ。俺だって考えたんだ。でも、君のいない生活なんて耐 え切れない。君がいること自体があたりまえだったんだ。だから……君がいけな いんだぜ?
 それでも君は悲しそうな顔を緩めてはくれなかった。
 どうしろって言うんだよ?こんな気持ちにしたのはもともと君なんだぜ?
 彼女は、俺をふわりと抱き寄せる。
 いき……て
 そう言い残して彼女は消えてしまった。そして俺の足が自然と後ろに下が った。
 自分の分も、俺の分も生きろ。
 そう言われた気がして、
 空は飛べなかった。