悔いはない、だろう?

あぁ…ない。

お前の小さな物語も、これで終わりだ

終わ…り?

これからはおまえ自身の物語を刻み込め……


物語……?なんのこと………だ?

眠れ。小さき旅人よ






























Story  1   任務 






「今日は何?またディグ狩り?」
 暗いロッカールームで着替えをしながら今日のチームメイトに聞く。
「いや、リフトの護衛、だとさ。端から端まで送るだけ。ローディーの能無しでもできる仕事さ」
 ロッカーに寄りかかっていたその人は、いかにもつまらない任務だと言わんばかりにため息を吐くと、ボッシュはチームメイトであるリュウの肩に手を置いた。
「先に行ってるから、準備できたら来いよ」
 まだ着替え終わっていないリュウは、返事を返すと急いで着替え終える。
 誰も居ないロッカールームは、天井の換気扇が回っているだけで、薄暗い部屋はいつものように静かだ。リュウはだいぶガタがきている自分のロッカーを勢いよく閉めると部屋を出る。ロッカールームより気持ち明るい廊下を進み、目的地へと向かう。途中、自分と同じレンジャーと何人かすれ違う。リュウ、この地下で生まれ、育った青年は、ここの生活に不自由を感じていない。レンジャーという依頼を請け負う仕事をしているので食に困っていない。しいて言えばもっと空気のよい場所にいくことができれば幸いだろう。 自分の能力値を決めるD値も高くないからしかたないが、この値が高ければもっと高い場所、地上に近いところに住むことができる。しかしそれは下層区、もっとも地上から離れた所で暮らす人なら誰もが思うことだ。なぜなら日に日に深い所から空気が汚れ、汚くなっているのだ。これも人間がしてきたことなので仕方のない。政府はこの事実を知っているだろうが、下層区であり、下級の人がいるこの区間にまで政府は目を向けてくれない。みんな不満を言いながら当てにならない政府の対応をずっと待っているのだ。
「遅いぞ、リュウ」
 突き当たりの部屋の前で待っていたボッシュは、やっとリュウが来たのを見て組んだ腕を解いた。
「上司は遅刻するとうるさいからな。さ、行くぜ」
 そういってボッシュは先頭をきってその部屋に入る。リュウは一呼吸おいて足を進めた。この部屋に入るといつも気が引き締まる。目上の人の部屋にはいるときはいつもそうだが、特にこの部屋、隊長の部屋は他と空気が違う。整然と整理された部屋。チリ一つもなさそうなキレイな床。なによりこの部屋の主が他人を寄せ付けない雰囲気を出しているからだ。
「ボッシュ 1/64」
「リュウ 1/8129」
「以上2名参りました!」
 前で二人に背を向けている女隊長に敬礼をする。隊長はゆっくりと振り向いた。
「よろしい……すでに知っているとは思うが、今回の任務はバイオ公社の下層実験棟より実験用物資を搬送するリフトの護衛です。あなた達はそのリフトに乗り込み、積荷の警備るす任にあたってもらいます。……あなた達であれば問題ないでしょう。何か質問は?」  いつものことのように機械的に命令を言い渡す。二人ともいつものように首を横に振る。
「了解です、隊長。ですがその前に少しお話が……」
 ボッシュがちらりとリュウを見る。それに気付いたリュウは隊長に礼をする。
「俺は先に失礼します」
 部屋を出てリュウは扉に振り返った。
 ボッシュ何話してるんだろう……?
 特に難しい任務でもないよな?と思いながらリュウは一人リフトの発車の乗り場へ向かった。












 男が机の上に書類を放る。
「大気浄化プロジェクト……愚かな。ここへ来て何をしようと言うのだ?」
「さぁ……」
 リンと鈴が鳴る。部屋の隅に要る女がペットを抱き上げた。
「ただ……言えることは、彼は混乱も絶望もしていません。今は……」
「…それしても、こんな強引な……あいつらしくない。それに私に告げるのも…解せん」
「お分かりのはずです。ぼくたちには……できることしかできませんよ」
「………」
「………」











 長…―と………きた
「!?」
 荷物を乗せた貨物列車は規則正しく車体を揺らしながらレールの上を走っている。貨物の両脇にそれぞれが見張りに立っている。この大きな丸い鉄のタンクの向こうにボッシュがいるのだ。しかしボッシュが話しかけたとしても、お互いの声はもっとはっきり聞こえるはずだ。なのに誰かの声が聞こえた。
 リュウは辺りをうかがう。が、 やはり誰もいなかった。
 終わった…… 
 さっきよりも鮮明に声が聞こえる。どんどんこちらに近づいて来ているみたいに。
 とうに、消えた我が試みを呼び覚ます、者……小さき友よ。今一度ソラへ―……
 大きな瞳が背後に感じる。背筋に寒気が走る。汗が咽を伝う。誰かに後ろから見つめられているような、そう、とてつもなく大きな存在に………
 バッと振り返る。振り向きざまに腰の剣を抜く。横を吹き抜ける風を刀身が切り裂く。
 しかしそこには誰もおらず、見えるのは岩肌のみ。
「どうかしたか?」
 けはいを感じてボッシュが声をかける。
「いや、なんでもない」
 気のせいだろう、とリュウは思いなおす。
 さっきの声を思い出すことはできないが、ただ、何かの言葉がしつこく頭に残っていた。
 あーじん?
「まぁ気楽にいけよ」
 ボッシュが声をかける。
「レンジャーの護衛までついた 輸送車両 (リフト) を襲おうなんてやつはいないさ」
 最後に鼻で笑うボッシュ。
「あぁ…!!」
 言うや否や危険を知らせるサイレンがリフト全体から鳴り響いた。
「くそっ!変なこと考えているのはどこのどいつだ!」
 ボッシュはすぐさま手近にある機関銃へ向かう。リュウも突然の急襲に備え、近くの機関銃へ向かう。
 岩壁を挟んだ反対側の線路から閃光が放たれた。その筋がリフトを掠めていく。
「ちっぃ!!」
 二人は何度かその光の下に銃を放つが、塞ぐように所々に出現する岩壁に阻まれてしまう。それでも銃弾は相手に届かなかった。
「強襲ディグ?… 反政府 (トリニティ) か!?」
 ボッシュが半ば叫ぶ。相手は野生のディグを慣らし、意のままに操ることができる。そしてその中でも相手を襲う能力に長けたディグを強襲ディグと呼ぶのだ。
 トリニティはあっさりとリフトを追い抜いて行ってしまった。
「…あきらめ……」
 銃を向けるのを止めて相手を見つめると、遠くのほうで何やら大きなミサイルをこちらに向けている。
「あれは…やばいぞリュウ!!」
 向こうはリフトを吹き飛ばす気でいるらしい。ロケットランチャーを、あろうことかこちらに向けているのだ。このまま発射されればこのフリトごと木っ端微塵だ。
 大きな粉塵が巻き起こったのが確認できた。それを追いかけるように辺りを轟かす音が響く。そして赤い悪魔がこちらに火花をちらつかせながら一直線に向かってる。
「うわ〜〜〜〜!」
 走っている列車から飛び降りようとしたが間に合わず、リュウは底なしの谷底に放り投げられた。
「リュウ〜〜〜〜!」
 間一髪で線路に飛び移ったボッシュは暗闇に向かって叫んだ。
 辺りにはリフトの残骸と、赤い火花が空気を焦がしていた。










-NEXT STORY-


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