第1解 _出会い_
今日も…寒い。
シテは黄緑のロングスカート越しに膝を抱えた。コンクリートの地面が外の雨を吸って冷たく温めていた。その中をいろんな音が入り混じる。火の音、サイレンの踊り狂う音、逃げ惑う悲鳴、混乱に乗じて脱走する音。
シテは固く冷たい牢獄の中で耳を澄ましていた。例え頑丈に作られている牢だとしても、火の手には敵わないだろう。それに今まで身体の体温を奪っていた冷たさもなくなってきている。火がここまで来るのも時間の問題だろう。
ここで死ぬのもいいかもしれない……
外で何かが倒れた。その衝撃でシテの外側の牢の壁が崩れる。
久しぶりに広がる外の風景。周りは自分の身を守るのに精一杯で囚人が逃げ出していても咎めるような人はいない。しかしそれを目の前にしてもシテは動かなかった。ただ立ち尽くして眺めているだけだった。
「逃げないのか?」
不意に影がかかり、上から男の声が降りてきた。シテは顔を上げ、じっとその男を見つめた。
「誰?」
その男はシテの反応に違和感を覚え聞き返した。
「このままこの場にいるのか?」
「……わかんない」
崩れた壁の向こうに目を向けた。勢いが治まることなく火の手が迫ってくる。
「あなたはなぜここに?」
シテの問いかけと同時に男に腕を引かれ、気がつくと男の乗っている馬の背に乗せられた。
「ち、ちょっと!」
暴れれば落馬することはわかってたので、声だけで抵抗するが男にあっさり無視された。
それでもシテは無理に抵抗しなかった。してもしなくてもしても同じなのだ。
背後にあった熱が遠退いて行く。熱で熱った身体が落ち着く頃になって男はようやくシテを森の中に降ろした。だいぶ牢
から離れた。ここから人の足で戻るには土地の隆起が激しすぎる上に、
泥濘が多く足を取られる。
それでも戻れと男は言う気なのだろうか?
「ありがとう」
シテは礼を言いつつ困った。これからどこを目指せと?
「あまりありがたくなさそうだな」
え、と思わず口に手を当てた。
「顔に出やすいタイプだな」
男にそう言われ、シテは顔を赤くした。
「それだけ元気があれば一人でも大丈夫だろう」
男はそう言うとシテのもとから立ち去ろうとするので、慌てて呼び止めた。
「置いてくの?」
「着いて来てどうするんだ?」
言葉に詰まった。少々顔立ちがいいからってはっきり言わないでよ。
「誰か待ってたんじゃないのか?」
男に言われ、シテは首を傾げるが、火事になっても逃げなかった自分を思い出し
た。
「違う。迎えに来る人がいなければ、誰も待ってない。ただ……」
「どっちにしろ俺には関係ないことだ。俺は行く」
「待って!」
「なんだ」
少し苛立った声色だ。男に切目で細く、紅目で冷たく睨まれた。
「連れてって」
意を決して男を直視する。男もシテの目を見て、馬の向きを変えた。
「来てどうする?」
「私をあそこから連れ出したんでしょ?だったら……」
「勝手にしろ。ただし邪魔になるようなことはするな」
男はシテを自分の前に座らせると馬を走らせた。緊密になった距離に戸惑ってシテは身をよじった。それに驚いた馬が息を荒げた。
「邪魔をするな!」
すぐ上で叱責され、シテは肩をすぼめる。
「ごめんなさい……」
怒られ、身を固くする。しかしそれも背越しに相手に伝わってしまった。
「お前は利口だな。それともバカなだけか?」
男に鼻で笑われ、シテはふん、と鼻で笑い返した。
「どちらでもありません。それにお前、じゃなく、名前はシテです!」
「そうか」
興味無さそうにそう言うと男は黙ってしまった。シテは霧がかる森の風を横切りながら後ろにいる男を考えた。見ず知らずの、しかも女囚人と一緒にいることに何も考えないだろうか?一見ただの冒険者のように見えるが、よく観察するとそうでもないようだ。腰に帯ている長剣は刀身が細いが、切りつけるのにもっとも適しているタイプだ。骨格もがっちりしていて、戦い慣れている、あるいは戦いに備えている感じだ。兵士、と思ったが、髪の金色はいいが、長さが規定よりずっと長い、腰に届いているから違うだろう。でもその姿は遠くから見ても聡明だ。しなやかな立ち姿に、澄んだ紅い目で見つめられたら大抵の人は一撃だろう。
「あなたの名前は?」
シテが沈黙を破った。
「知ってどうする?」
「あら、あなたもお前、って呼ばれたい?」
「呼び方なんて好きにすればいい。好きに呼べ」
「つまんないの」
そっけない返事にシテは唇を尖らせた。
「じゃ好きに呼ぶわよ。あなたって根暗なのね」
「………」
「どうしてあそこにいたの?誰かと面会の用?関係者じゃないよね。あなたの顔見たことないもの」
「………お喋りだな」
「うるさい?」
さっき怒られたばかりだったので、シテはまた怒られるかと身構える。
「……いや。だが騒ぐと容赦なく置いてくぞ。悲鳴なんて上げたら即、だ」
「……はい。肝に命じときます」
「だが騒がなさそうだな」
「そう?」
「あぁ。馬の扱いも知っているようだしな。でないと今頃落馬して炎の中で焼かれているな」
「えぇ。まぁ、ね」
シテはそれ以上あの場所に関係することを聞きたくなくて口を閉じた。男も口を開かず、それからまた沈黙が続いた。
静寂の森の中を、馬の蹄が地を蹴る響きが支配する。土地柄木は細く、鳥すら寄
ろうとしない。心なしか霧が濃くなってきた。
「どこに向かっているの?」
シテは訪ね、自分の腕を擦った。囚人服は生地が薄い。それに長時間霧に当たっ
ていたせいで身体が冷えきってしまった。できればどこかで暖をとりたい。
「寒いのか?」
我慢しろ、と言われるかと思っていたが、優しい言葉が返ってきてシテは大きく
頷いた。
「……これで我慢しろ」
やっぱり我慢するのね。
覚悟を決めた時、不意に温かい物が肩に掛けられた。驚いて見てみると、男が羽
織っていたマントだった。
「これ……」
シテがマントの裾を握る。男は口を閉じてシテと目を合わせようとしなかった。
「ありがとう」
シテは裾を引き上げると身体に巻き付けた。冷えた身体に、男で体温で温められていたから心地いい。ついうとうとしてはっと頭を起こした。辺りの様子を伺う。日はすっかり昇って霧は晴れていた。そして自分がまだ馬の上にいてホッと息をついた。
「やっと起きたか」
男に聞かれ、シテは目を擦る。
「どのくらい寝てた……?」
「さぁな」
「もしかしてずっと馬を走らせてた?」
「あぁ」
シテは馬の背を撫でた。いくらなんでも休まずに歩かせすぎだろう。
「大丈夫なの?」
「馬の心配より自分の心配をしないのか?」
「なんでよ」
「今どの辺りにいるのかわからないんだぞ?」
「えっ。迷子になっちゃったの?」
男からため息が溢れた。
「言っとくがそんなことになったことはない。自分がどこに連れられるのか心配
じゃないのか?」
シテは馬の頭越しに行く先を見つめた。
「別に。あ。でも聞きたいな。どこに向かってるの?」
「……北」
「……え?」
「行く先なんて決めない」
「気の向くまま、風の向くままってことね。カッコイイなぁそう言うの」
「………」
この人は今までどんな生き方をしてきたのだろう。
シテは聞きたかったが止めた。無口無表情の人は聞いても答えてくれないと決ま
っているのだ。
「……なんだ」
「え?」
「聞きたそうな顔をしてるぞ」
「そ、そう?」
シテは背を堅くした。知られたくないことをどうしてすぐに知られてしまうんだ
ろう。
「あなたはどうして……止めた」
シテは肩の力を抜く。
「もう一眠りしてもいい?」
「好きにしろ」
そっけない返事を軽く受け流し、シテは再び目を閉じた。
「ホシのハナ?」
幼いシテは真ん丸の瞳で自分より大きな顔を見つめる。
「そうだよ。その花はお星様の形だけじゃなく、お星様がお空で遊んでいる時し
か咲かないんだ」
シテはそう言われ、夜空を仰ぐ。濃い空に光りのコンペイトウが散りばめられて
いる。
「お星様?」
「そうだよ。シテが夜になっても怖がらないようにいつもあそこにいるんだよ」
「こ、怖くなんかないもん!」
シテは頬を膨らます。
「ハハ。ゴメン、ゴメン。シテは強いんだもんな」
「うん!」
笑顔でシテは強くその人に頷いた。
「起きろ」
頭を小突かれてシテは心地よい夢から目を覚ました。サッと後ろの気配がなくな
り、寝起きの目を擦る。いつの間にかどこかの町に着いたらしい。男は馬を馬舎
に繋ぐとシテを置いて先にどこかに進んでいた。
「ま、待って!」
シテは慌てて馬から降りると男のマントを身体に巻きつける。男の隣に並んで歩
こうとするが、足のコンパスが合わず置いてかれそうになる。
「ここどこ?」
「リズミだ」
「……あぁ」
記憶の片隅にそんな町の名前があったような気がする。冒険者や商人が集まる町
だ。しかし情報が行き交う分物騒だと聞いている。
「ここで何を?」
シテが顔を上げると、男はポケットから適当にお金を掴んでシテに突き出した。
「これで服を買え。余りは返さなくていい。用が済んだら酒場の『酉
埜』に来い」
「え?ちょっ、ちょっと……」
シテの問いかけは虚しく人混みに掻き消された。シテは渡されたお金を広げてみ
る。
……こんなにも……?
普通の人なら気軽に出せるような金額ではない。
いったい何をしてるの……?
男が向かった方向を見つめるがシテは息をついた。
ま、いっか。
シテは男とは反対の方向に歩き出した。
適当な店で適当に服を買い、シテは男に言われた酉埜なる酒場を探していた。それにしても活気がある。夜も更けて、盛り上がりは最高潮だ。しかしそういう時こそ暴動や酒に乗じていろんな悪い人が行き交うのだ。その中心地でもある酒場に女一人で行くのは勇気がいる。
ここ……ね
シテは背に仕込んである、さっき買った武器の取っ手を確かめた。大丈夫。ちゃんとある。
シテは目の前に立ちはだかる扉を見据え、唾を飲む。
よし。
シテは重い扉を押し開けた。
熱気と騒音が遅いかかってきた。
シテは人混みを掻き分けて男の姿を探した。あの人のことだからきっと騒がし
い所でなく、隅の方にいるだろう。シテは手近な所を目指した。
「……すまないな」
「まいど」
男が話を済ませ、向かって来るシテに気づいた。
「終わったか?」
「えぇ。そっちも?」
「あぁ。行くぞ」
二人はシテが入って来た出入り口へ向かう。
「あれ〜?リースじゃないか?」
少し離れた席から呼ばれた気がした。シテと一緒にいる男が俄かに反応した。
「やっぱりリースじゃん。あー。女連れてる〜?」
近寄って来た男が慣れ慣れしくリースの肩に手を伸ばす。リースはその手を軽
く流すと相手を気にせず歩く。
「つれないなー。ね?」
「え?」
急に話を振られ、シテは咄嗟に立ち止まった。今まで一緒にいた男の名を知っ
てる人がいたのに衝撃を受けていたのだ。リースと違って、反応してくれたこと
に機嫌を良くした男はシテに標的を変えた。
「キミってリースの女?」
「え?ち、違います!」
予期せぬ問に顔が赤くなる。
「あれ?顔赤いよ?図星?やっぱいつもクールなリースも、自分の女に手出した
ら怒る?」
顔はニヤケながらリースの様子を窺い、その手がシテの胸元に向う。
「はっぁ!」
シテの足が反射に相手の腹を目がけ、男の腹に食い込む。男はそのまま近くの
机を巻き込んで派手な音を立てて仰向けに倒れた。
「あ……」
反射とは言え、騒ぎを起こしたことにシテはリースの様子を窺った。リースは
怒るどころか、愉しそうに笑っている。その様子を見た辺りの人からの飛ばされ
た男をからかう笑い声が辺りを包んだ。
「このクソ女……!
」
恥をかかされて真っ赤になった男が起き上がると、シテに拳を上げる。怒り任
せの攻撃は隙だらけで、シテは突き出された拳を見届け、再び男に蹴りを見舞っ
た。再び派手な音を従えて床に倒れた。リースは伸びて動かない男に近づくと、
顔を覗き込んだ。
「女にヤられるとはな。それでも男か?」
リースの言葉に酒場全体が笑いに包まれた。男はシテの一撃で伸びてぐぅも言
えない。
陽気に包まれた酒場を、リースは顔を綻ばしながら後にした。シテは慌ててそ
の後を追いかけた。
「知り合いじゃないよね?」
騒ぎを起こした以上リズミにいると厄介な事に巻き込まれかねず、二人はとり
あえず町から離れることにした。
シテはあの時からずっと気になっていた。リースと言う名を知っていた人を蹴
ってしまったのだ。もし知り合いだったら、取り返しのつかないことをしてしま
った。
「違うさ」
「そうよね」
シテは答えにホッと胸を撫で下ろす。すると突然リースが声を上げて笑い出し
た。
「な、何?」
リースは声を上げて、笑いを堪える様子を見せない。
「ハハハッ!気に入った!」
「ぇ……?」
シテはリースが笑っていることに衝撃を受けているのに、以外な言葉で更に開
いた口が塞がらない。
「案外強いんだな」
やっと笑いを堪えたリースがシテに言う。それでシテもようやく心を落ち着か
せた。
「どうも……」
シテにはリースの気持ちが解らず、チラっと表情を盗み見た。相変わらず楽し
そうだ。
「これからもその男を蹴り倒す力を役立ててくれ」
「はい……ぃ?」
はっと振り返る。やっぱり。私この人解らない。
「なんだ?」
リースがシテの視線に気づく。
「いいえ!なんでもありません!」
シテは頬を膨らませてそっぽを向いた。
私、そんなに力が強くないわ!
しばらくして、まだ日が昇るには時間があることから、それまで野宿すること
になった。起こした火はすでに燻
り、二人の身体には冷たい朝露が乗っかっている。
静けさが漂う中、二人の近くで休んでいたリースの馬の耳がピクリと動いた。
それに連動して小枝が折れる乾いた音がした。
キィーン……
「くそっ!」
静寂を破る人の声と、刃物が弾かれる音がそこに響いた。刃と刃が擦れあい火
花が空気を震わす。リースはいきなり襲いかかってきた相手の攻撃を受け止め、
その刃を払う。相手はリースから飛び退くと、体勢を整え武器を構えた。
「復讐か?」
「ま、そんなところだ。昨日は俺に散々恥じをかかせてくれたからな」
男が不適に笑う。昨日二人に絡んできたあの男だ。相手は狙いを定めるとリー
スに飛びかかる。リースは自分の長い剣を振り、その攻撃を流す。寝込みを襲っ
てすぐ片づくと思っていた相手は、なかなか倒れないリースに動揺を隠せないで
いた。リースはその気の緩みを見逃さない。
相手の太股目がけて刃を払う。血が縦に走った。
「ぐっ……」
一瞬の隙を突いたリースの一撃が相手に飛びかかる。相手はその拍子に地面に
膝を突いた。リースは相手の血が付いた刃を鞘に納めると、相手に背を向けた。
「もうわかっただろう。二度と邪魔をするな」
「うるせぇ!」
相手は勢いに任せて立ち上がるとリースに切りかかる。荒っぽい攻撃は簡単に
リースに躱されてし
まう。相手は当たらない攻撃にますます腹を立て剣を振り回した。
「そろそろ終わりにしないか?」
「黙れぇぇ!」
リースはいい加減男の相手に飽きて、鞘に納めていた剣を抜く。それが弧を描
いて相手を襲い、相手の剣が遠くの地面へ弧を描いて突き刺さった。
「去れ」
リースの鋭い眼光が相手を縛る。その目を直視した相手はそのまま動けず震え
てた。
「……?」
ようやく物音に気づいたシテが身を起こした。二人がそれを見、同時に動いた
。
「動くなよ」
ややシテの近くにいた男が、隠し持っていた銃口をシテの頭に押し当てる。
間に合わなかったリースは、踏み出した足をそのままにして微動だにしない。
シテは男の顔を見、リースの血の付いた剣を見て、息を飲んだ。
「はっ。お目覚めかい?」
男が息を整えながらシテを覗き込む。額から汗が流れている。かなり緊張した
のだろう。シテは何も答えず、リースを見た。
「まず、下ろせや」
男がリースを顎でしゃくる。リースは男を睨みながらゆっくり剣を下ろした。
「よぅし。今度は俺の剣を取って来てもらおうか?」
シテもリースも、今この男に逆らえばシテの命が危ないことはわかっている。
しかしいつまでも言いなりにはならない。
リースはシテの目を見つめる。シテはそれに気づいて小さく頷いた。
隙を見て逃げろ。ね。
自信はないが、シテはリースが言わんとしていることを読み、背にいる男の様
子を窺う。男はリースを視線で追い、シテに向けている銃口が少し下がった。
今っ!
シテは男の銃を下から払い上げる。衝撃で銃を落とした男は慌てて拾おうと屈
んだ。リースは銃が離れた瞬間、自分の剣を拾い上げた。
「死ぬ、か?」
リースが不適に笑う。男から離れて、その笑みを見てシテは感覚を全て殺され
たように思えた。体温が奪われ、動きが縛られた。
男も同じらしく、喉仏に突き突きられた剣先を見つめたまま動けないでいる。
リースは男がこれ以上向かって来ないことに満足すると、剣を納めた。
「行くぞ」
背を向け、シテを促す。ようやく自由になったシテは立ち上がった。去り際、
ちらっと男の様子を盗み見た。茫然と焦点の合わない目で在らぬ方を見ていた。
二人は馬に乗ると、進み出した。朝日はそろそろ顔を出そうとしている所で、
まだ辺りは暗い。シテはユラユラと馬に揺られて再び眠気に襲われた。はっと気
づくと、身体が半分傾いていた。
慌てて身体を起こし、辺りの様子を窺う。少し木がまばらになってきたような
気がする。
「もう森を抜けた?」
少し先を行くリースに尋ねる。
「いや。まだだ。なんだ?また寝てたのか?」
「ぅ……」
寝ちゃ悪いの?そりゃあなた見たいに起きられないけど……
「リースは眠くならないの?」
「……あぁ。慣れた」
「慣れ?前から旅してるの?」
「あぁ……」
なんとなくそれ以上聞きづらい空気が漂って、シテは口を閉じた。
「いつからあそこにいたんだ?」
少し進んだ時、リースが振り返ってシテを見た。シテは自分に聞かれたことに
気がつかなかった。ややあって、はっと顔を起こした。
「え、何?」
「……なんでもない」
リースはじっとシテを見た後、再び前を向く。