支中の旅人

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 見慣れた風景が四角い窓から流れていく。高層ビル。通勤帯なので目の前はほとんど黒一色。あとは携帯の着信音に大きな話し声だけ。
 ………あれ?
 ナギは確か寝ていたはずだ。布の上に。………そっか。これは夢か。
 そうだとなんとなく理解できた。毎朝見る光景の夢だ。授業の始まるギリギリの時間帯の電車に乗って登校する。そのあと学校でアサミと会って教室に入る。つまらない授業を受けて、ズルして帰ろうかな〜と考えながらも結局最後まで出て、放課後は友達とビルの梯子が掛け。アサミは部活で一緒には行けないが、終わる時間を見計らって訪ね、一緒に駅まで帰る。そしてまた電車に揺られて、人に揉まれて肩がこって家に帰る。勉強しなきゃな〜と思いながらテレビを見て寝る。そんな毎日の風景だった。
 場面が一転して、バスに揺られていた。クラスメイトが疲れたようにバスで眠っている。修学旅行だ。そうだ。この日は思い切って啓太君に告白しようと決めていたけど、結局できなかった日。それにハディルを見た日。全てが変わった日。
 変わった?
 何が?本当に変わったの?
 ナギはあの時の自分を振り返った。

 世界なんて滅びちゃえばいい

 確か、こんなことを考えていた。
 本当にそう思っていたの?

 自分の知らない人がいて、知らない生活があって、知らないルールがある。………あればいいのになぁ。

 本当にそうなの?
 今、それが現実となった。知らない人がいて、知らない生活がある。獣聖という知らないルールに縛られて、知らない戦いに巻き込まれてる。
 本当にそうなの?
 これは本当に願っていたこと?
 それは本当に叶って欲しいこと?

 違う。
 ナギは必死に首を振った。
 本当は違う。今まで通りでよかった。変化がなくても何も文句は言えないはずだった。
 世界が滅んだら、自分も死んじゃう。
 知らない人に会ったら、絶対顔見知りして話せない。
 知らないルールに縛られたら、絶対受け入れられない。そうよ。
 新しいことは望んでも、受け入れられない。
 受け入れてしまったら、受け入れる前の自分がいた意味がなくなってしまう。
 今まで違う世界があると思っていた自分に、そう思っていた自分を否定していた自分が消えてしまいそう。
 でも世界が変わっても変わらないものがあった。
 アサミだ。
 夢の中が、辺り一面物や人が一切ない白一色に変わった。
 何もなくても、アサミは傍にいてくれた。大変な思いをしても私を気遣ってくれた。
 私もアサミも一人じゃない。だからアサミ一人でがんばらせない。私はがんばるアサミを守れる力を手に入れたのだから。
 知らないルールに縛られた力を。
 私はこの知らない力を受け入れる。
 ナギは大きく頷いた。
 例えこの力が永遠に付きまとうとしても。
 私はこの世界を受け入れる。だから、

 私も戦う。




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