NEOSU          The writer is 楼 羽青
Next









                  No.0 「ありがとう……」










  
 □ 

「ヒュウヒュウ!」
 軽快な口笛が鳴り、段上で踊っていた女の姿をした人があおられた。それを、遠くから酒を片手にカリオスとソーサ、隣のテーブルにエルがいた。
「あれがワイスとはね・・・・」
 ソーサが呟いた。それにカリオスがフッと笑った。
「人生色々、だな」
カリオスは一口お酒を飲んだ。
「ほらほら」
「ちょっとハリス、引っ張んないでよ」
 ハリスがヒスリアを連れて、エルのテーブルに向かってきた。
「エル」
 エルは呼ばれて振り向いた。そこには、金色の髪の毛を腰まで伸ばし、ドレスアップして恥ずかしそうにもじもじするヒスリアがいた。
 つい見とれていたエルは、ハリスが話しかけるまで気が付かなかった。
「踊ってらっしゃい」
 エルは我に返ると、ヒスリアの手を引いた。
「行こうか」
 ヒスリアはためらいがちにエルの手を取った。
「ふう。やれやれですわね」
 同じくドレスアップしたハリスが、エルの座っていた席に着いた。やはり着慣れているせいか、ハリスのドレスは、よく似合っていた。
「お疲れ様」
 ソーサがハリスに言った。ハリスはソーサに微笑んだ。
「でも、良くこんな短時間で再興できましたわね」
 ソーサはグラスを持った。
「それはハリスのおかげだ。ハリスが国王に頼んで、人材と道具を送ってこなかったら、こんなに早くできなかった」
 ハリスは楽しく踊る村人を見据えた。
「どれくらいでしたっけ」
「半月は経ったな」
「もう、そんなにするんですの?」
「ああ」
 ソーサも村人に目を向けた。
「今、こうしていられるのも、ハリスのおかげだ」
「待ってください!」
 ハリスがソーサを見た。
「私の方が礼を言わなければなりませんわ。あの時、ブークストーンを私にくださったから、今が成り立っているんですもの」
「ブークストーン・・・・それをどうしたんだ?」
 カリオスがハリスに聞いた。ハリスは座り直すと、自分の所に向かってくるユエを見た。
「父上と交渉したんですの。この石を使わせて上げますので、ソーサの村の全面的にバックアップしろって」
「ほう・・・・けっこうやるな」
 ひらひらした服を着たユエが、カリオスに抱きついた。
「お久しぶり〜!」
 カリオスはユエを放した。
「・・・・ユエ、毎度思うんだが、会うたびに抱きつくな」
 ユエは首をかしげた。
「どうして?ユエの愛情表現だよ」
 カリオスは素直な返事を聞かされ、言い返せなかった。
「ユエはお店を持てたんですの?」
「うん!イストロイドはそこでお留守番」
 ユエがカリオスから離れて、ハリスの近くに座った。
「ソーサ村長が作ってくれたの」
「おいおい!」
 ソーサがユエに向き直った。
「いつから誰が村長になったんだ?」
 ユエはクルッと頭を回すと、ソーサを見た。
「みんなが言ってるよ。ソーサが村長だって。ねーみんな!」
 ユエの言葉に、近くにいた村人が声をあげた。それにソーサが立ち上がった。
「待ってくれよ!そんなことできるわけないだろう!」
「なんで?」
 フェクスンが人垣から現れた。
「あ、フェクスンじゃありませんの」
 フェクスンがカリオスの隣に座った。
「いいかげん認めたら?」
「そうだよ」
「でも・・・・」
 ユエとフェクスンに言われたソーサだが、どうしても認められない様子だった。
「ソーサ」
 ハリスが何かたくらむような眼差しをソーサに投げかけた。
「借金をチャラにしてあげますから、あなたが村長になりなさい」
「うっ・・・・・・・」
 ソーサは顔をしかめた。
「借金って、いくらなの?」
「百万?」
「うそ」
 カリオスの答えに、フェクスンとユエの口が開いた。
「本当ですわ。この際、私ががめつくなる前に、決めちゃったほうがよろしいですわ」
「そうだぜ」
 いつの間に来たのか、ワイスがソーサの隣に立っていた。
「ほら、決めちゃえ」
 ソーサはしばらく唸ったが、とうとう折れた。
「わかった。・・・・・・みんなが望むなら、それでもいい」
 その言葉を聞いた瞬間、村人が総立ちした。そして口々にソーサの名前を叫んだ。
「行ってやれよ」
 カリオスがソーサに言った。ソーサは言われて、ようやく歩き出した。
「わかったよ」
 そして人垣の中に消えていった。
「いい村長になるな」
 ワイスが今度はハリスの隣に来て言った。
「そうですわ。もう、モンスターに怯えて暮らすこともなくなりましたし」
 ワイスがそっと膝をつくと、ハリスに手を差し伸べた。
「一緒に踊ってくれませんか?」
 ハリスはパッと顔を赤くした。
「で、でも・・・・」
 ワイスは微笑みながら言った。
「それとも、女装している奴と踊るのはいやか?」
 ハリスはそう言われ、ワイスの手に自分の手を置いた。
「綺麗な男の人となら、踊ってさし上げてもいいですわよ」
 ハリスはそう言って立ち上がった。
「じゃ、綺麗な女の人よ、踊りましょう」
 ハリスは笑い出した。
「ええ」
 そして人垣の中に消えていった。
「みんな行っちゃったね」
「なんか、あまり者の気がする」
「ま、今日は勘弁してやれ」
 カリオスが残った二人をなだめた。
「今日はこの村の再興祝いなんだ。せめて・・・・」
 カリオスの言葉を、二人は同時にさえぎった。
「こうなったら、食いつぶれてやる!」
「こうらったら、踊りつぶれてやる!」
 フェクスンは皿に適当に盛り始め、ユエは人垣の中に消えていった。カリオスは軽くため息をついて、残りの酒を仰いだ。
「今日くらい、おれも浮かれていいだろ?」
 カリオスは空に向かって呟いた。



















END