NEOSU          The writer is 楼 羽青









                  No.7 「秘められた一閃 流れる思い」








「あのー…」
 エルがなおも聞こうとすると、カリオスが振り返った。
「ユーリまで行って、サリの大会いに出る、それだけだ」
「…それだけ?」
 エルは強くなるためにもの凄い特訓をするとばかり考えていたので、拍子抜けてしまった。カリオスはそれだけ言うと、すたすたと歩き出した。エルはどうしても納得できず、立ち止まった。
「それだけですか?」
 カリオスも足を止めた。
「では、逆に問う。この先の未来、時間をかけて鍛錬して、仲間が死ぬといわれたらどうする?」
「…そうですね……」
 カリオスは何もいわず、ふんと鼻を鳴らすと、先に歩き出した。エルは慌てて追いかけた。
 ユーリまでの旅は、エルにとって過酷を極めた。ただ行くだけ、と言ったので気楽にいたエルは自分の気の持ちさに後悔することになった。出てくる怪物は今まで戦ったどの怪物より遥かに強く、何度もひん死になりかけた。しかしカリオスは馴れているらしく、やすやすと怪物を倒していた。時には、わざと戦わずに、エルに戦わせる余裕まで見せていた。
 ユーリに着くころには、日も傾きかけエルはボロボロだった。それに比べカリオスは疲れた様子など微塵も見せない。エルは改めてこの男のすごさを思い知らされた。しかし、こんな人ならいくら幼くても覚えているはずだ。なのになんでカリオスはエルのことを知っているのだろう。そればかり気になっていた。
 ユーリは、言わばモンスターハンターの為の村だった。どこを見ても戦いなれたつわものばかりだった。
 エルは宿の部屋に着くなり、ぐったりとベッドに身を沈めた。
「寝たければ寝ていろ。明日にはサリへ行く」
 カリオスは今にも寝そうなエルに言う。エルはゆっくり体を起こすと、半目でカリオスを見上げた。しかしもうそこにはカリオスの姿はなかった。
『……疲れた〜』
 エルはいつの間にかぐっすりと眠りに着いた。

 カリオスは一人酒場にいた。バーテンダーに強い酒を頼むと、カウンターの前で静かに飲んでいた。酒好なハンター達の集まる所だけあってやや上質な喉ごしだった。しかし強くなると人は傲慢になるのか、大口を開けてがやがや騒いでいた。
「そこの (あん)さん」
 一人の男がカリオスの隣に座ってきた。男はカリオスとそう年が離れていなさそうだったのか、馴れ馴れしく隣で酒を飲み始めた。カリオスは男を一瞥すると、酒を仰いだ。
「なんだ」
 男はバーテンダーにビールを頼むと、カリオスのほうへ体を向けた。
「つれねいなぁ。おいしい話があるんだけどさ……」
「興味ない」
「…え?」
 カリオスは男を一睨みした。男は射抜かれて竦み上がった。
「興味がないと言っている。他を当たってくれ」
 男はどうしてもカリオスに頼みたいらしい。まだ席を動こうとしない。
「まだ何にも言ってないでしょうが。な、話しだけでもきいてくれよぅ」
「………」
 カリオスが黙っていると、男は話しを聞いてくれるものと感じて、一人話し始めた。
「この先に小さな獣の生存地区があってな、その獣が高く売れるんだよ。そんなに強くないから、安心なんですけどねぇ」
 男がカリオスの顔を覗き込んだ。カリオスは閉じていた目を開けると、男を見た。
「弱い獣なら、自分で戦ったらどうだ?」
 男は一瞬顔をしかめるとグイッとビールを仰いだ。
「いやぁね。その獣がすばしっこく、急所に当たると、石化しちまう能力を持ってるんだよ」
「イヴェルスか」
 イヴェルスとは、ネズミの頭から角が生えている四肢が猫のような怪物のことで、今では希少価値がついて闇で高く売れるほどだった。
「そう!よくご存知で!!そのイヴェルスを捕まえに行きません?」
 カリオスはふっと鼻で笑った。
「あいにく、無差別に生き物を殺す主義じゃないからな。それがイヴェルスならなおさらだ。あれはやっかいだから他を当たってくれ」
 カリオスはそう言って最後の酒を飲み干すと、酒場から出て行った。男は小さく舌打ちすると、他の人に声をかけ始めた。
 日が明けぬ頃、エルはカリオスに叩き起こされた。
「な、なんですか…まだ日も昇ってないじゃないですか……」
「では、お前はここに置いて行くとしよう」
 それまでまだ夢の中だったエルはその言葉で飛び起きた。
「起きます!行きます!」
 エルは急い支度を済ませた。二人がユーリを出る時、出入り口が少しざわついていた。
「なあなあ、聞いたか?イヴェルスを捕まえに行った奴らが、全員石化で見つかったってよ!」
「だろうと思ったぜ」
 エルは知らない言葉が出てきて、前を行くカリオスに問いかけた。
「カリオスさん。イヴェルスってなんですか?」
「そのうちわかるさ…」
 カリオスは騒ぎ立てるハンター達を背に微かに笑みを浮かべた。


 日が昇った頃、二人はなんとかサリに着いていた。
「へえー。ここがサリなんですか」
 エルが大口を開けて辺りを見回す。サリはユーリと違って、広く賑やかだった。人も店も多くの軒を連ねていた。カリオスは迷うことなく闘技場向かった。闘技場の受付で、カリオスはエルのエントリーを済ませた。
「お前の試合は三回目だそうだ。始める前に待合室へ行け」
「え?ちょ、ちょっと…」
 カリオスはそれだけ言うと、どこかへ消えてしまった。
『なんだかなぁ』
 成り行きで出場することになったエルは、とりあえず観戦することにした。
 ここのルールは、三回戦方式で、出場した人に合った体格の怪物と戦う。そして勝者、他の勝者と戦い、最終的な勝者を決める。というものだった。
「おおっと!これは痛い!もろにモンスターの攻撃を食らったー!」
 場内に白熱したアナウンサーの声と、傍観者の騒ぐ声がうるさいくらいに行きわたる。エルはその声につられてリングにいる人を見た。
 怪物が挑戦者に襲いかかる。その攻撃で挑戦者は深手を負ってしまった。すると、挑戦者は武器を降ろし、両手を高々とあげた。
「おおーっと!リタイヤです!挑戦者。リタイヤです!」
 アナウンサーの声と共に、挑戦者が闘技場を後にした。エルはその光景を見て不安に駆られた。
『僕より強そうな人が一回戦でリタイヤ!?…僕なんか、すぐやられそうな……』
 エルは観客席から待合室へ移動した。今はどうあがいてももう戻れない。カリオスが決めたこととはいえ、自分が強くなるためにもやらなければならなかった。
 エルは押しつぶされそうな不安の中で、ふとヒスリアの顔が浮かんできた。
「エル・ウルガスンさん。どうぞ」
 自分を呼ぶ声がして、エルは意を決して立ち上がった。係りの人がエルを闘技場の中へ案内していく。エルは気持ちが引き締まり、剣を持つ手が汗ばむ。
 一歩明るくなると、耳をふさぎたくなるような歓声が飛び込んできた。エルは自然と観客席を見上げた。さっきまで自分がいた所。しかし今となっては重いプレッシャーンの歓声に感じた。
「次は初出場、エル・ウルガスンだー!」
 わっ、歓声が沸き起こった。エルは気恥ずかしくなって、前方に置かれている檻を見た。そこにはこれから戦うお腹がすいている怪物が入っていた。それはゆうにエルの背丈を越している。早くエルを食べたくて 暴れていた怪物が入って扉が開き、怪物が急に駆け出した。エルは目の前だけに集中した。すると歓声がぴたっと聞こえなくなり、一切の時が自分のものとなったようだった。
 エルは刀身を横向きに大きく後ろへ反らすと、柄を横腹にぴたっとつけた。怪物に睨みをかけた次の一瞬、エルは大きく刀身を横になぎ払った。
「トロンフーヌ!」
 その技はカリオスとの旅の途中で覚えたものだった。素早くなぎ払った風にエネルギーが宿り、鎌のような形を形成すると怪物の胴体を真っ二つに引き裂いた。
 爆発的な歓声が沸き起こった。エルは簡単に事切れた怪物を見て、唖然としていた。
『こんなに簡単に事倒せるなんて……』
 待合室に戻るとカリオスがいた。エルはカリオスを見つけて駆け寄った。
「見ました?」
 カリオスは腕を組んで目を瞑ったままエルに言った。
「自分が強くなったことがわかったか?」
 エルはカリオスにいわれふっと、怪物を一撃で倒したことを思い出した。
「カリオス・クリスタンさん。そろそろ時間です」
 カリオスがもたれかかっていた壁から離れた。エルは目を見開いた。
「あなたも出るんですか?」
 カリオスが剣に手をかざしながら言った。
「もしかしたらや戦り合うかもな」
 カリオスはそれだけエルに伝えると戦いに行ってしまった。
 カリオスは当然のごとく、三回戦も楽々勝ってしまった。エルもそうだった。しかし、このままだと二人が当たる可能性が必然的にどんどん大きくなっていく。エルは不安気に
「さあー!いよいよ決勝戦だー!今日は、エル・ウルガスン選手と、カリオス・クリスタン選手だー!」
 爆発的な歓声。でもエルの耳には届いていなかった。自分の力量の全てを知り尽くしている人が、今目の前にいる。その人がカリオス。自分も相手の力量を知っているからこそ、逆に怖かった。でも、ここまできたら戻れない。もう試合は始まってしまったのだから――
 カリオスが初めて剣を二本抜いた。それは本気のカリオスの証拠だった。エルも本気だった。
「レディー、スタート!」
 アナウンスの声と共に、二人が同時に駆け出した。刃と刃がこすれ合う音がしてお互い遠ざかる。エルは今使える全ての技、月光突、冷露山、トロンフーヌをカリオスに向ける。カリオスはそれらをいとも簡単に受け流した。でも、カリオスは決して反撃しようとしなかった。隙はあったはずだ。でも技を繰り出さなかった。
『どうして、攻撃してこないんだ?早く、早くとどめを刺せばいいのに……俺は早くみんなに……会いたいんだ!』
 エルは力をこめて剣を振り下ろした。
『そうだよっ!俺は早く………早く会いたいんだー!』
 もう一回エルは力をこめて剣を降ろした。カリオスは跳躍すると剣を下ろし、両手を高々とあげた。
「おおーっと!なんということでしょう!カリオス選手、リタイヤです!よって、優勝はエル選手に決まったー!」
 これまでにない歓声が一気に起こった。その中、エルは呆然と立ち尽くしていた。
「カリオスさん!」
 歓声に負けないように、エルもおのずと大声でカリオスを呼び止める。
「どうして自らリタイヤを?」
 カリオスは少しだけエルのほうに体を向けた。
「引き際を見極めただけだ。……それより、今日はこれで宿に泊まる。また明け方に出発するからな」
 カリオスはエルに背を向けた。
「それに、楽しかったぞ。」
「え?」
 カリオスの最後の言葉が聞き取れず、エルは聞き返したが、カリオスはいつものように優々と闘技場を後にした。
 エルは表彰を受けるとすぐに宿へ向かった。用意された部屋に着くとエルはすぐにベッドに横になった。
『もう、かれこれ二日も経ったんだなぁ。みんな、どうしてるかな?………』
 そこまで考えて自嘲した。
『今さらどうしてこんなことを?今までの僕なら、自分のことだけを考えてたのに。どうしたんだろう――』
 エルは考え込むと、そのままいつの間にか寝てしまった。



  エルは誰かの物音で目を覚ました。うっすら目を開けてみると、カリオスが出発の準備をしているところだった。エルは眠気眼で体を起こした。
「………おはようございます」
 カリオスの支度をする手が止まった。
「お前、どうした?夜、急に泣いていたぞ」
 エルは言われて自分の頬をさすった。涙の後が一筋、両方に流れていた。エルは慌てて拭き取ると自分も支度を始めた。
「カリオスさんはいつ帰って来たんですか?」
 支度を終えたカリオスが、ちらっとエルを見る。
「それを知ってどうする」
「いえ。別に……」
 カリオスはエルの困っている姿を見て、小さく呟いた。
「お前の寝ている時だ。寝ていたんだから、気づかなくて当然だろう」
「まあ………当たり前ですね」
 納得したエルを見て、カリオスは小さく息を吐いた。
「さっさと支度を済ませろ。今日はお前の仲間のもとへ帰るからな」
「えっ」
 エルの手が止まり、カリオスを見た。
「帰るんですか?」
「そう言ってるつもりだが?」
 エルの顔がパッと明るくなった。
「やっと帰れるんだ…!そのあとカリオスさんはどうするんですか?」
 明るいエルの問いかけに、カリオスは何も答えなかった。エルはどこにも行く当てがない、と解釈して優しい口調でカリオスに言った。
「どこにも行くあてがないのなら、これからも一緒に行きません?」
 カリオスの無表情がエルを捕らえた。
「カリオスさんは、僕と何らかの関りがあるんでしょう?なら、一緒にいたほうが何か思い出すかもしれないじゃないですか」
「……お前がよくても、仲間が許さないだろう」
「そんなことありませんよ」
 エルは胸を張る。
「みんな、歓迎してくれますよ。……きっと」
「……ふん」
 それ以来、カリオスは口を開かなかった。
 二人がサリを出て、カリオスと出合った森を抜けた時は、まだ白い月が山の頂にかかっている時だった。それでも二人の足取りは止まることなかった。むしろ加速していた。エルの、仲間に会いたい。という気持ちが自然と足取りを早くしていた。そのおかげで、太陽が昇る頃にはもう山脈の入り口だった。
「カリオスさん」
 エルが山脈の麓で立ち止まった。
「どうしてまだヒスリア達がここにいるとわかるんですか?」
 カリオスがゆっくり振り返った。
「冷静に判断してみろ。この山脈は相当足が速い人でなければ一日や二日で登れるような山ではない。あの三人の速度からすると、そう早くはないだろう。なら、今ごろは頂上付近がせいぜいだ」
「へぇ」
 エルは雲がかかる頂上を見上げた。
 しばらくして、ようやく山脈の頂上がすぐそこまできた。エルは高鳴る気持ちを必死に押さえるように、一踏みが力強く良くなる。
『もうすぐみんなに会える………今ごろはラベンダーでも探しているのかな?それとも、休んでいるのかな?なんでもいいや。早く会いたい。早く!』
 自分の目指す頂上に近づくにつれ、微かに何かの音がしてきた。それは、誰かが…戦っているような音だった。
 エルは一抹の不安を覚えた。最後の岩を登ると、辺りを見回した。
 見て驚いた。そこはすでに戦場となっていた。ヒスリア、ワイス、ユエ、イストロイド、それに知らない人までも一緒になって五人の目の前にいる一形の怪物と戦っていた。
 エルはさっと飛び出すと、剣を抜き、構えた。
『この野郎ー!』
「トロンフーヌ」
 エルの剣が怪物に食い込んだ。しかしそれだけでは怪物は倒れなかった。そこにカリオスが現れ、カリオスも切りかかった。
 エルはだいぶ弱っているヒスリアに駆け寄った。
「ヒスリア、これはどういうこと?」
 エルは見慣れない人と怪物を見た。大人びた風格を持っている人は、いま呪文を言っている最中だった。ヒスリアも視線を向ける。
「あの人はよくわからないの。突然現れて、ジェリノを攻撃してるの。ソーサって言ってた。で、そのジェリノが、突然ユエに襲い掛かったの。で……」
「ヒスリアの命が欲しいんだってさ」
 黙り始めたヒスリアに一息いれたワイスが付け足しをする。
「え?ヒスリアのいのち?」
 エルは意味が理解できなくて、ただ単にジェリノを見た。
「俺もさっぱりだぜ。ただ―」
 肩をすくめたワイスがジェリノの攻撃をさっと避けた。
「悪者ってことさ」
 ワイスはそう言うと、呪文を唱え始めた。
 エルはジェリノをよく見ようとしたが、攻撃のスピードが速くて、そんな暇がなかった。カリオスは剣を二本引き抜いていた。ソーサと言う人は、まるで怒りと憎しみをジェリノにぶつけているようだった。
「フッ。お遊びもこれまでだ」
 ジェリノがいくつもの透明な玉を手の平から現すと、それを目障りな人間達に投げつけた。エルは必死に逃げたが、わずかに体の一部が当たっただけで、風船のように玉が大きくなり、すっぽりと包まれてしまった。
 ジェリノが唯一閉じ込めなかったヒスリアに歩み寄った。ヒスリアはしっかりジェリノを見据えていた。ジェリノがその視線を感じて、ヒスリアを冷たく見下ろした。
「ほう。まだやるのか?戦う力も無いのに?助けてくれる仲間も、もういないぞ?」
 エルはその言葉を聞いて、やっと辺りを見回した。ジェリノの言う通り、全員捕まっていた。
 ヒスリアは決してジェリノから目を反らそうとしなかった。ジェリノはそれを見て動きを止めた。
「よかろう。その根性に免じて、面白いことを教えてやろう」
 ジェリノの視線がワイスに移った。エルはヒスリアに向かって叫んだ。
「ヒスリア!逃げろ!」
 しかしその声は決して風船の外に漏れることは。無かった。
『くそっ』
「おい、そこの男。しかと目に焼き付けておけ」
 ジェリノの声が耳元で響いたかと思うと、目線がヒスリアへ向かれたまま体が動かなくなった。ワイスはジェリノを警戒して、構えていた。ジェリノはそんなワイスをジーッとただ傍観しているようだった。
「この世に在るありとあらゆる物は、全て心の玉と色と言うものでできている。例えばこの男の色はー」
 ワイスを閉じ込めていた玉が黄緑色に変わった。
「黄緑。あの女は」
 ハリスの玉がピンク色に変わった。それから、ジェリノはヒスリアに一つ一つ教えるように、心の色を見せて言った。ユエは赤。カリオスは紫。ソーサはぐんじょう。エルは水色。残るはヒスリアだけになった。
「後はお前だけだな」
 ジェリノがヒスリアを見た。ヒスリアはまだジェリノを見据えた。
 ジェリノが自分の手のひらを見た。
「しかし、お前だけはそういかない!」
 ジェリノが、手のひらから魅せた光の矢をヒスリアに向かって投げた。ヒスリアは逃げる様子もなく、操られているかのようにジェリノを見つめたままだ。勢いの付いている矢はそのままヒスリアの胸を貫いた。ヒスリアが気を失ってその場に崩れた。
 それと同時に心に色を現していた玉が消えた。それと同時に動きが取れたエルはすぐさまヒスリアに駆け寄った。そしてジェリノを睨んだ。
「ヒスリアに何したんだ!」
 ジェリノはエルとヒスリアを見ると、フッと笑った。
「お前らだけに教えよう。その小娘の心の色は―」
 エルがジェリノに怒鳴った。どうしてもジェリノの嘲る言い方が気に入らない。
「小娘じゃない!ヒスリアだ!」
 ジェリノはうるさそうにエルを 見下 (みくだ)す。
「名などどうでもよい。その小娘の色は無い」
 その言葉に、一同唖然とした。
「バカな。この世に生きるものならば、色があると言ったのはお前だぞ」
 カリオスがジェリノに牙を剥く。ジェリノはカリオスを見た。
「いかにも。言った。だがな、ないケースもあるのだ」
「ネオス………」
 ハリスが小さな声で呟いた。ジェリノがその言葉を聞いてまた笑った。