NEOSU          The writer is 楼 羽青
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                  No.18 「声の音 心の色」










 エルはゆっくり歩いていた。今になって、後ろからヒスリアが追いかけてくるような気がしてならなかった。でも、そんなことはありえなかった。
『……』
 おもむろににポケットから鈴を取り出す。エルとヒスリアが出会い、夜中に抜け出す合図として使ったあの鈴だった。鈴を振るとリンとした音が辺りに響く。哀愁を誘う鈴をエルはすぐにしまった。意を決して顔を上げる。エルは仲間の姿を目でとらえた。
『……さよう…なら』
 エルは歩調を速めた時、急に立ち止まった。
「エル!」
誰かがエルの名を叫んだ。そして振り向いたエルに飛びついた。エルは飛んで来た人をしっかりと受け止めた。その首には、さっき捨てたはずのジュエリーがかけられていた。
「ヒスリア!」
 エルは愛しい人の名を叫び、自分の胸にいるヒスリアに問いかけた。
「どうして・・・」
 ヒスリアはエルに笑いかけた。
「生まれ変わってきたんだよ」
 エルはその言葉を聞くと、またヒスリアを抱きしめた。 
「ヒスリア・・・・・」
「エル・・」
 二人に気づいた仲間が、二人に駆け寄ってきた。


「これで、本当に終わりだね」
 エルが崩れた黒い塔を見下ろしながら、ヒスリアに言った。
「うん。終わり」
「帰ろうよ」
 ワイスが腕を後ろに回して仲間にいった。
「そうだな」
 カリオスがあとに続いた。
「あ、ユエお腹すいたぁ!」
「だったら、非常食でも食べるか?」
「いらないよ。それまずいもん」
 ユエは口を尖らせた。
「せっかくですし、どこかの高級料理にしません?」
 ハリスが目を輝かせていった。
「お前のおごりならいいぜ」
 ワイスの言葉に、ハリスも口を尖らせた。
「そんなことより、早く行こうよ」
「どこへ?」
 エルがフェクスンを見下ろした。
「決まってるじゃない。帰るんだよ。船、コポで呼んでおいたから、今ごろぼく達を待ちわびてる頃だよ」
 フェクスンの言葉に、みんなが笑顔になった。
「フェクスン偉い!」
「フェクスン最高!」
「ビバ、フェクスン!」
「フェクスン天才!」
「い、いやぁ。当たり前のこと言わないでよ」
 フェクスンが仲間のおだてに乗って、笑顔を浮かべた。
「ほら、見えたぞ」
 カリオスの言葉に、全員が岸を見た。
「ユエ、いっちばーん!」
 ユエが颯爽と駆け出した。
「おい、待てよ!」
 ワイスがその後を追いかけた。他の仲間も後に続いた。
 エルはヒスリアの手を引いた。ヒスリアは笑顔でそれに答えた。

「じゃ、ソーサさんとカリオスさんは、ソーサさんの村の復興をするんですか?」
 フェクスン専用船の中で、エルが二人に聞いた。
「ああ。いまさら行く当てもないからな」
「なら、わたくしもお手伝いしますわよ」
 ハリスがソーサに微笑んだ。ソーサはありがとう、と短く言った。
「ワイスは?」
 聞かれたワイスは、飲んでいたコップを置いた。
「俺は病院に戻るよ。俺も時々なら手伝えるけど」
 エルはフェクスンを見た。
「フェクスンは研究?」
「当たり前だよ。それが僕の仕事だもん」
「ユエはどうしますの?」
「え?」
 イストロイドの修理をしていたユエの手が止まった。
「何?」
「ですから、これからですわ」
「これからねえ・・・・」
 ユエは顎に指を立てた。
「一応家に帰って・・・・どうしよう」
 ユエがイストロイドに問いかけた。イストロイドは自分を見ているユエを見詰めた。
「どこか一緒に住もうか」
 笑顔のユエを見て、イストロイドは頷いた。
「じゃ、決定。ついでだし、ソッさん。ユエの店も作ってよ」
「断る」
 ソーサが冷ややかに反論した。
「えー。なんで?住人だって少ないんでしょう?いいじゃん」
「ユエが来ると、うるさくなる」
 ユエが手を振り上げた。
「なによー!」
 そして頬を膨らますと、プイッと顔を背けた。
「あなた達はどうするんですの?」
 ハリスがエルとヒスリアに言った。言われた二人がお互いに顔を見合わせた。
「どうしよう」
 異口同音に二人が口を開いた。それに二人とも顔を赤くした。
「また、旅に出ようかな」
 エルがハリスに言った。それにハリスは首を振った。
「わたくしはもういいですわ。こりごり」
「俺も旅にでも出ようかな」
「なんのですの?」
 ハリスの言葉に、ワイスは笑顔を浮かべた。
「題して掘り出し物探し」
「女装の旅の間違えじゃないの?」
 ユエの呟きに、ワイスの顔が赤くなった。
「なんでそうなるんだよ!」
 ワイスの反応に、みんなが笑い出した。

「ここでいい?」
 フェクスンがフォドールから少し離れた所で仲間を降ろした。
「ありがとう」
 ハリスがフェクスンに礼を述べた。
「用があったらいつでも呼んでよ。ひまな時だったらいつでも駆けつけるからさ」
 ワイスが感心したように頷いた。
「お前にそんな一面が有ったんだ」
「うるさいよ」 
 フェクスンが顔を赤らめた。
「じゃ、ソーサの村が復興した時に会おう」
 カリオスとソーサが一緒に先を歩いて行った。
「じゃ、ユエも帰るよ。またね」
 ユエがイストロイドを連れて自分の家へ歩き出した。
「わたくしも帰りましょう。でもなぁ・・・・・」
「どうしたんです?」
 エルが暗いハリスに聞いた。ハリスは頭を上げると、エルを見た。
「たいしたことではありませんの。帰ったら怒られるなって思っただけですから」
 ハリスはそう言うと、とぼとぼ歩き出した。
「いいんですか?」
 ヒスリアがハリスの後ろ姿を見詰めている、ワイスに聞いた。ワイスはヒスリアに微笑んだ。
「俺はあいつを縛りたくない。俺も縛られたくない。これがいいんだよ」
 ワイスはハリスと反対の方向に歩き出した。エルはそれを見送ると、ヒスリアを見詰めた。
「僕達も、行こうか」
 ヒスリアが満べんの笑顔を浮かべた。
「はい!」
 二人は新たな目的地を探して歩き始めた。