NEOSU          The writer is 楼 羽青









                  
No.15 「黒い言葉 笑顔の真実」











 「きゃぁあ!」
 ヒスリアが悲鳴をあげながら地面を大きくこすった。それを見て、エルが剣先を敵に向けた。ソーサは全身の力を相手に集中していた。もう残り少ないわずかな力を、倒すべき相手、ジェリノに向けて気をためていた。
『もう、二度と会わないように、もう、苦しまない!』
 しかしソーサの攻撃は掠めただけで、ジェリノにとって大きな損失にならなかった。前より力が増しているジェリノは、誰も歯が立たなかった。そして、次に言ったジェリノの言葉に、全員が驚愕に目が見開かれた。














 一行は再びワネータに着いたところだった。適当に宿を取ると、足早に休んだ。全員再会した安堵感か、ぐったりと疲れていた。
「なあ、ちょっと町を見て回らない?」
 翌日になって、ワイスがエルを誘う。今日一日は各自自由な時間にすると決めていた。
「いいよ」
 エルは返事をすると、残りの仲間に顔を向けた。
「フェクスンとソーサさんは?」
「僕はここにいるよ」
「おれは適当に寝ている」
 ソーサはそう言うと、腕を後ろに回した。エルはそれを見ると、ワイスと一緒に外に出かけた。
 エル達は適当に歩き回り、エルがふと立ち止まった店に入った。そこは宝石などを扱っている店だった。
「どなたかへプレゼントなさるんですか?」
 品物を眺めていたエルに店員が愛想良く話しかけてきた。
「え、ま、まあ」
 エルがあいまいに返事をすると、店員は商品を一つ手に取った。
「これは、願いが叶うジュエリーです」
「願いが叶う?」
 エルが少し興味を持って、店員に聞いた。
「はい。特に」
 店員が少し声を潜めた。
「恋に効くとされています」
 パッとエルの顔が赤くなった。
「何見てんだ?」
「うわっ!」
 ワイスが横からいきなり声をかけてきて、エルは肩がすくび上がった。ワイスはそんなエルの反応を見て、笑い出した。
「おいおい。そんなに驚くことないだろ?で、何かあったか?」
「な、何にも!」
 エルはバクバク言う心臓を必死に落ちつかせながら、ワイスに、とりあえずここから離れようと思った。去り際、店員がジュエリーをエルに差し出すように手に添えた。
「お買い上げなさいますか?」
 笑顔の店員に、エルは無言で答えた。

 そのあと一行は足早にワネータを後にし、少し離れた船着場に向かっていた。でも、少しと言っても、ニ、三日でつけるような距離ではなかった。冬場となれば交通手段も限られてしまい、その道をひたすら歩いていた。
 歩いて数日が経ったある日、ソーサが異変に気づいた。
『何かがおかしい』
 夕暮れに近づいてきたとき、ソーサは何か違和感を覚えた。空気の流れが、何かに怯えているようだった。それを感じる力は、紋様が色黒くなってから、敏感になっていた。気になるものの、他の仲間は何も感じていないようで野営の準備をしている。
『やはりおかしい』
 気のせいにしようとしてもどうも気になってしまう。その気配が身に覚えのあるものだったからだ。
『どこからか、あいつの感じがする』
 ソーサは一人仲間のもとから離れると、銃を手に、辺りに気を配った。
「やはり、お前とは何か因縁があるようだ」
 低い、わずかの間に声がした。ソーサは瞬時に悟った。あいつの声だと。
 ソーサが銃口を声のしたほうに向けた刹那、全身をまとうような突風に襲われた。ソーサは風の進むまま、数メートル後ろに下がった。風がおさまると、すぐさまソーサは発砲する。
 銃声が聞こえ、エルは剣を持って駆け出した。あとから仲間達も走り出した。
 草木を掻き分け、エルがまず目にしたものは、ソーサと、対峙しているあのジェリノだった。
「遅いぞ」
 ソーサが来たエルに言った。エルは剣を鞘から抜くと、ソーサに言った。
「すみません」
 エルはそう言うと切りかかった。
 あとから駆けつけた仲間も合流し、ジェリノへ攻撃を始めた。ジェリノの目的はわかっている。ヒスリアだった。しかし、攻撃をしている理由はそれだけではなかった。ソーサの過去と、ジェリノのした事を聞いた皆は、それが許せなかった。
 一方ジェリノは、楽しむかのように攻撃を受け流していた。時には自らの肉体を傷つける時があるが、それさえも楽しんでいるようだった。まるで、刃向かってくる力が楽しいように・・・・・
「さて。どうしたものかな?」
 ジェリノが地に肘をついているエル達を見て言った。双方血が流れ、苦しいのに、ジェリノはまったくそれを表に出さなかった。
「どうして・・・・」
 エルが立ち上がりながら、言葉に力を込めた。
「どうして、ヒスリアを狙ってくるんだ!」
 エルは立ち上がり、顔をジェリノに向けた。
「答えろ!」
 ジェリノは自分の腕から流れる血をなめた。
「それは、偉大なあの方の命令だからだ」
 ジェリノは自分の、漆黒のこうもりのような翼で飛び上がった。
「この狂った世界を正すために、私はあの方によって作られた」
「狂った世界?世界を正す?」
 エルは剣先をジェリノに向けた。
「そうだ。何もかもが狂い、間違った世界。もともと、このくだらない人間がいけないのだ。異端者をのけ者にし、その存在を否定しつづけ、いい者だけ崇拝する、このおかしい世界がな!」
「異端者・・・?ネオス?」
 ジェリノがその言葉を聞くと、高笑いを始めた。
「そうだ!よくわかったな!あのお方は、世界を正す、世界を破壊し、新たな世界を創るために私を作った。しかし、私は不完全だった!」
 ジェリノが巨大な風圧をヒスリアに向けて放った。エルの髪の毛が持ち上がり耳元をスッと掠めていた。それはヒスリアに向かい、避けきれなかった。
「きゃぁあ!」
 ヒスリアが悲鳴をあげながら地面を大きくこすった。それを見て、エルが剣先を敵に向けた。ソーサは全身の力を相手に集中していた。もう残り少ないわずかな力を、倒すべき相手、ジェリノに向けて気をためていた。
 ソーサの攻撃放った攻撃は掠めただけで、ジェリノにとって大きな損失にならなかった。前より力が増しているジェリノは、誰も歯が立たなかった。そして、次に言ったジェリノの言葉に、全員が驚愕に目が見開かれた。
「そしてあのお方は完全な力を持つお前を作ったのだ!この世界を変えるべく、あのお方と一つになり、あのお方の力となり、あのお方と共にこの世界を破壊するのだぁぁ!」
 エルはヒスリアを見、ジェリノを見た。
「うそだ!そんなのウソに決まってる!でたらめを言うな!!」
「うそではない。現に、なぜお前達はあいつの親を探しているのだ?どこに行っても見つからないのだ?」
 確信に突かれ、全員言葉を失った。
「その答えはただ一つ。あのお方が親だからだ!」
 ジェリノは最後に、
「次ぎに会う時、テオチルが最後だ!!」
と言い残し、また空に舞い上がり、姿を消した。
 残された者の間に、重苦しい沈黙が流れた。ワイスは傷を癒すために、呪文を唱えた。
「テンシンフェングローング天待奉光メンオテンダイ達我天代ミングリング命令 アランベレ」
 全員を淡い、暖かな光が包んだ。
「ヒスリア・・・・・・」 
 エルが剣を納め、ヒスリアに近づいて来た。しかしヒスリアは、それから逃げるように、一言言った。
「ごめんなさい・・・・」
 ヒスリアが一人森の中へ駆け出した。エルはそのヒスリアをただ見つめるだけだった。
「行かないんですの?」
 ハリスがうつむいているエルに言った。エルが顔を上げてハリスを見た。
「・・・・・・僕が?」
「他に誰がいるんだよ」
「そうだよー」
 ユエ、ワイスがエルに笑いかけた。
「今、ヒスリアはきっと誰の言葉も聞き入れてくれはしないだろう。だからこそ、エル。行ってこい」
「でも・・・・・なんて言っていいのか・・・・」
「そんなの、自分の思うことを言えばいいんだよ。頭悪いなあ」
 フェクスンがコポを小さくしながら言った。
「そうだ。あとで後悔しないように」
 ソーサがフェクスンの言葉に付け足した。エルは一人、ヒスリアの後を追いかけた。
『このまま会ったら、なんて言葉を言うかわからない。でも、でも・・・・君と離れたくない・・・・』
 エルはヒスリアの姿を捉えた。

「ねえ、エル」
 ヒスリアが涙声になりながら、後ろにいるエルに言った。エルは立ち止まった。
「こわく・・・・ない?私が世界を滅ぼそうとしている人の、手の内で生まれてきたこと。その人の・・・・力にあるために生まれたこと・・・・・・」
 エルがヒスリアに近づいて来た。後少しで、ぶつかりそうだった。ヒスリアは続けた。
「私・・・・やっぱ他の人とは違ったんだ。みんなとは違う力が使えて、みんなとは違う、運命を託されていたんだね。私、私は・・・・」
 ヒスリアの目から、再び大粒の涙が流れた。ヒスリアの震える肩を、エルがそっと抱きしめた。ヒスリアはエルの腕の中で泣き崩れた。
「私は・・・!私はただ生きたいだけなのに・・・!」
 一通りヒスリアの悲痛な叫びを聞いたエルは、ゆっくり口を開いた。しかしすぐには言葉が出なかった。
『ヒスリアは…ヒスリアは……』
 エルの淡い青の瞳が潤んだ。
「ヒスリアはどうしたいの?」
 ヒスリアが落ち着いきた。
「あの人って、人と、一緒にいたいの?」
 ヒスリアが大きく首を振った。
「僕達と、別れたい?」
 ヒスリアはまた首を振った。エルはヒスリアの答えを聞いて、ホッと安心した。
『まだ、一緒にいられる……』
「なら、一緒にいようよ」           
 しばしヒスリアが黙った。
「敵なのに?それでも、いいの?」
「あぁ。僕達にとって、僕にとって、ヒスリアは必要なんだよ」
「でも、いつ裏切るか…」
「ヒスリアは仲間だ!」
 エルは即座に答えた。
 ヒスリアが体の向きを、エルの方に向けた。そして、エルの瞳を見つめると、そっと手を伸ばして、エルの涙を拭き取った。
「泣かないで。どうして、泣いてるの?」
 エルは泣いていたせいで少しはれぼったい、ヒスリアの目を見つめた。
「また、一緒に旅、しようよ」
 ヒスリアはエルの胸に頭を預けた。
「うん。また、旅しよう。」
 再びエルの目から涙が溢れた。
『今だけ、今だけは…ただ泣こう………』

「もう、大丈夫ですの?」
 ハリスが、帰ってきたヒスリアに聞いた。涙で少しはれぼったいヒスリアの目が笑った。
「もう大丈夫。ごめんなさい。心配かけちゃった?」
「うん。心配したんだぞ」
 ユエが腕を組んで、偉そうに言った。ヒスリアがまた笑った。
「ありがとう」
 ヒスリアはみんなに向き直ると、背筋を伸ばした。
「私、あの人・・・・私の親と、一度話してみたいの。たぶん、世界を破壊することを止めることは無理だと思うけど、できるだけ、できることをやってみたいの。・・・・いい?」
 ヒスリアは一人一人の顔を見回した。仲間はそれに答えるように、頷いた。
「おれからもお願いがある」
 ソーサがヒスリアに向き直った。
「あいつは・・・・ジェリノはまた会うといった。次に会う時、あいつは全力で向かってくるだろう。おれは、自分の一人だけの力ではもうあいつを倒すことができない。だから・・・・・・」
 ワイスがソーサに向かって拳を上げた。
「決まってるだろ。そんなの当たり前じゃん」
 エルもソーサに優しく言った。
「僕からもお願いします。一緒に来てください」
 ヒスリアもソーサに手を伸ばした。
「また、一緒に行きましょう」
 ソーサは自分を見ているたくさんの顔を見た。ソーサはフッと笑うと、歩き出した。
「早くしないと、夜が明けるぞ」
 ソーサの後に続いて、仲間が歩き出した。エルはそっと近づいて来たヒスリアの手を、きゅっと握りしめた。

 □

 「気っ持ちいー!」
 ユエが潮風を体中に浴びながら、甲板の縁から身を乗り出した。その後ろには、危なっかしいユエが落ちないようにしっかりイストロイドがいた。その近くでソーサが昼寝をしていた。
 ジェリノと会って、数日のうちに一行は港に着いた。そのままテオチル行きの船がちょうど良く在ったので、それに乗り合わせた。
「まったく、いつもながら元気ですわね」
 ハリスが一段上にある甲板から、下の甲板にいるユエを見ながら言った。
「ま、しょうがないんじゃない?こんな開放的になれるのも、なかったしさ」
 隣にいたワイスがハリスに話しかけた。
「このところ、戦闘続きでしたものね」
 ハリスはワイスに向き直った。
「ワイスは?」
「え?」
「開放的にはならないんですの?」
 それを聞いたワイスは、甲板の淵に立つと、身を乗り出した。
「あ―――!!」
 ワイスはそう叫ぶと、ハリスを見た。
「お前も叫ぶ?」
 ハリスは手を広げて、首を振った。
「次の機会までにとっておきますわ」
 ワイスは控えめのハリスの背を押した。
「次、なんてないかもしれないぞ。今は今しかないんだから」
「ちょ、ちょっと」
 ワイスはハリスを縁に立たせると、自分は一歩下がった。
「ワイス!」
 しかしワイスはハリスを急かした。ハリスはとうとう折れて、一、二回咳払いをした。そして手を口に添えると、大きく口を開けた。
「ワイスのバカやろー!」
「!」
 ワイスは素早くハリスを後ろに下げ、ハリスの顔を覗き込んだ。
「何で俺なんだよ!」
「えへっへ」
 ハリスは屈託のない笑顔をワイスに見せた。ワイスはそれを見ると、ため息だけ吐いた。
「ワイスがいけないんだよ」
 ハリスがワイスにウインクして見せた。
「今は、今しかないって言ったんだからね」
「はいはい」
 ワイスはまた、ため息を吐いた。

 同じ時刻、ハリスの叫びを聞いたヒスリアが、小さく笑った。
「どうしたの?」
 同じ部屋にいたエルが、ヒスリアを覗き込んだ。ヒスリアは首を振ると、他の仲間を見た。
「あの二人って、相変わらずだな、って思って」
 フェクスンが背もたれに身を預けた。
「仕方ないんじゃない?似たもの同士ってやつだよ」
「似たもの同士か・・・・友達じゃなくて?」
 エルがフェクスンを見た。フェクスンはコポを取り出した。
「あんなの、友達の域、越してるよ」
「そう・・・かもね」
 ヒスリアが微笑んだ。心なしかエルは、ジェリノに真実を告げられて以来、ヒスリアが明るくなったように思えた。何かに開放されたように、穏やかだった。
「ね、僕達も甲板に出てみない?」
 エルは立ち上がりざまに言った。それにヒスリアが続いた。
「そうね。行きましょう」
「ぼくは嫌だよ。めんどくさい」
「そんなこといわないで、さ」
 ヒスリアはいやがるフェクスンの腕を引いていった。
 甲板に出てみると、ユエとイストロイド、少し離れた所にワイス、ハリス、そしてソーサが縁の所に座っていた。
「あ、ヒスリア達も座ろうよ!」
 ユエがヒスリア達の姿を見つけ、手招きした。ヒスリアがそれに誘われるまま、ユエの隣に座った。
 オレンジ色の大きな夕日が、海を同じ色に染めながら沈んでいるところだった。
 それを眺め、それぞれの思いを馳せながら誰も口を開かなかった。
 ユエが夕日を眺めながら、その日を浴び、顔をオレンジ色に染めてイストロイドにもたれかかった。
「カリリン、今ごろどうしてるんだろう・・・・」
 静寂を破ったその言葉に、重苦しい沈黙が続いた。それを割ったのは、ワイスだった。
「ユエ、どうしてそんなにあいつのことが気になるんだ?」
 ユエがイストロイドの服の端を握りしめた。イストロイドが優しくユエを見下ろした。
 ユエの目が、オレンジの日に光った。
「カリリンは・・・・・もういない、お父さんと同じ感じがするんだ」
 ユエはそれだけ言うと、イストロイドに顔をうずめた。いつも明るく元気なユエと正反対の、ユエの内側を知った皆は、いたわりの目でユエを見た。
「あの長髪君なら、何とかやり過ごしてるさ」
 ワイスが静かにユエに言った。ユエは顔を上げると、大きく息を吸った。
「そうだよね。そうだよ!あのカリリンがくたばる訳ないよね!」
「ユエ」
 フェクスンがユエに冷ややかに言った。
「くたばるって、ムードのかけらもなさ過ぎ。君一応女の子でしょう?」
 ユエは遠目でフェクスンを睨みつけた。
「フフフ。まだまだ甘いわね。女は底知れないものなのよ!」
 フェクスンは底知れぬユエのパワーを感じ、ソーサの陰に隠れた。
 ワイスが小声でハリスに耳打ちした。
「あれ教えたのお前だろ」
 ハリスは笑顔で答えた。
「わたくし以外に、誰がいますの?」
 ワイスはユエの将来のことを案じて、ため息をついた。

 テオチルまでの海路はとても穏やかなものだった。天候も良く、波も穏やかだった。その中を、エル達を乗せた船は順調にテオチルに着いた。
テオチルは小さな島国だった。数年昔までは豊かな緑が一面に広がり、生き生きとしていた。しかしその大地は怪物によって荒廃し、見るも無残な姿に変わり果てていた。
「ひどい・・・・」
 その大地を見たヒスリアが、目を細めながら辺りを見回した。  
「本当・・・・・」
 ハリスも目を細めて何もない前を見据えた。
 この島には唯一、ただ一つだけの村があった。しかしそこは今ではどんな姿になっているのか、誰も想像がつかなかった。
 村は、原型がわからないようなくらい破壊され尽くされたあとだった。村人は何も持たずに村を離れたらしく、生活雑貨などがそのままだった。
「ここでキャンプを張らないか?」
 ソーサが家の前で立ち止まった。つられてエルも止まった。
「そうですね。もう休もうか」
 海岸から歩き通しだった一行は、座り込むようにその場にしゃがんだ。
「もうクタクタですわ」
 ハリスが自分の足をさすりながら、地べたに座り込んだ。その足は少しむくれていた。
「そんな靴はいてるからいけないんだよ」
 ワイスがハリスに言ったが、ハリスはそれを否定する気力がなかった。
「しかし、まだ誰も手をつけていなかったのか」
 夜がふけ、皆が寝静まった頃、見張り役になったエルとソーサ、いつも起きているイストロイドが火を囲みながら、辺りに気を配らしていた。
 ソーサが呟いたが、答えるものは誰もいなかった。エルはうとうととしているし、イストロイドは鼻から返答はしなかった。
「・・・・・え?」
 しばらくしてエルがようやく顔をソーサに向けた。
「・・・・・おれの故郷と同じだな、と思ってさ」
 エルの目が冴え、自分の膝に顔をうずめた。
「・・・・・今、ソーサさんの故郷はどうなってるんですか?」
「ここと同じさ」
 ソーサが顔を上げた。
「もう、誰も覚えている奴もいないと思うし、復興させようと思う奴もいない」
 ソーサはエルを見た。
「こんなことを思うのは、おれだけだ」
 エルは目の前で、時折風でゆらめく炎を見詰めながら口を開いた。
「手伝いますよ」
 エルはソーサに笑いかけた。ソーサはフッと鼻で笑い返した。
「おれが生きていたら、な?」
「いえ、ソーサさんは必ず生きて、自分の場所に帰りますよ」
 エルの不安のない笑顔に、ソーサは一瞬、今までに思ったことのないことに戸惑った。
『生きて帰る・・・・・・・』

 数日間、歩き通しだった。行けども行けども一面荒地で、代わり映えしない風景に、みんながやる気を失せていた時だった。
「なあ、どのくらい歩いた?」
 ワイスが重い口調で仲間に尋ねた。
「岸辺からは相当歩いたな。この分だと端から端まで歩いたんじゃないか?」
 ソーサの答えを聞いたワイスは、重々しくため息を吐いた。
「だらしないですわ」
 ワイスがハリスを横目で見た。
「そんなこと言ったって、どうしようもないじゃないか」
「だからって、落ち込むことないですわ。わたくし達は最後の戦いをしに行くんですから。いつでも気を引き締めておかないといけませんわ」
「ハリスの言う通りですよ」
 ヒスリアが振り向き、ワイスを見た。
「最後なんだから、がんばりましょう」
「きゃっ」
 ヒスリアが何かにぶつかり、体勢が崩れた。それを何とか持ちこたえると、振り向いた。ぶつかった何かは、急に立ち止まったユエだった。
「どうした――――」
 ヒスリアはユエにかける言葉を飲み込んだ。ユエが見詰めていた先には、黒々とした真っ直ぐな塔が建っていた。広野の中にそびえ立つそれは、悪魔そのもののようだった。
「何・・・・あれ?」
 ユエがゆっくり指先を塔に向けながら振り返り、仲間に答えを求めた。
「あやしいな」
 ソーサが塔を見詰めながらいった。
「あそこだよ」
 ヒスリアが塔を見詰めたままいった。仲間がヒスリアを見た。
「あそこに、ジェリノと親がいる・・・・・・」
 ヒスリアの言葉に、全員言葉を飲み込んだ。
 エルが一歩前に出た。
「みんな、準備はいい?」
 それぞれ武器を手に取った。
「最後の試練、絶対に生きて帰ろう!」
それぞれの頷きと共に、全員歩を進めた。まだかなり先に見える塔を目指して、気を引き締めながら歩き続けた。
 次第に塔が近くに見えはじめ、とうとう目の前に迫ってきた。そしてその前に立つと、エルは足を止め、塔を見上げた。磨き上げられたような光沢を放つそれは、静かにエルを見下ろしていた。
「ね、こっちに入り口があるよ!」
 ユエが少し離れた所から、塔の中を指差した。そこはゆうに縦十メートルはある細長い入り口だった。
「行こう」
 エルが先頭を切って塔の中に足を踏み入れた。